【書評】ぷしゅ よなよなエールがお世話になります―くだらないけど面白い戦略で社員もファンもチームになった話

- インプットポイント
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- ヤッホーブルーイングの成功要因
- マインドロイヤルティ育成の為の具体的取り組み
- マインドロイヤルティの未来
近年、企業が顧客との長期的な関係を築くための戦略として「ロイヤルティマーケティング」が注目されています。これは、新規顧客の獲得がますます困難になり、既存顧客との関係を強化することが企業の持続的な成長に不可欠となっているためです。新規顧客の獲得コストが既存顧客の維持コストに比べて高く、また、顧客離れを防ぐことで利益率が大幅に改善されることが分かっています。
これまで、ロイヤルティマーケティングの基本概念や具体的な戦略、成功事例等について以下の記事で紹介してきました。顧客ロイヤルティの向上が企業の持続的な成長にどれほど重要であるか、そしてそのためにどのような施策が有効であるか等を探ってきました。
- 顧客と長期的な関係を築くロイヤルティマーケティングとは?
- マインドロイヤルティを可視化するNPS(ネットプロモータースコア)とは?
- ロイヤルティマーケティングを実践するには何をすればいいのか?
- 「真のロイヤル顧客」の育成方法
- アクションロイヤルティを可視化するRFM分析とは?
- 顧客を惹きつけ、ロイヤルティを高める”コンテンツマーケティング”とは?
今回は、さらに一歩進んで「マインドロイヤルティの育成」に焦点を当てます。マインドロイヤルティとは、顧客が特定のブランドや企業に対して心理的な結びつきを感じ、長期的に支持し続ける状態を指します。これは単なる購買行動(アクションロイヤルティ)とは異なり、顧客の心の中に深く根付いた信頼や愛着に基づいています。
この視点から、ヤッホーブルーイングの代表取締役社長である井手直行氏が執筆した『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります―くだらないけど面白い戦略で社員もファンもチームになった話』を取り上げ、その中で語られるマインドロイヤルティの育成方法について詳しく見ていきましょう。

発売日:2016/4/8
著者:井手 直行
ヤッホーブルーイングの成功の歴史
本書ではヤッホーブルーイングの成功までの紆余曲折の歴史が魅力的に描かれています。以下に、その中でも象徴的なポイントをご紹介します。
- 創業の背景
ヤッホーブルーイングは、1996年に長野県軽井沢町で創業されました。当初は地ビールブームに乗ってスタートしましたが、ブームの終焉とともに経営は厳しい状況に陥りました。しかし、井手氏が代表に就任してからは、独自の戦略と情熱で会社を再建し、現在の成功へと導きました。 - ブランドの成長
よなよなエールは、ヤッホーブルーイングの代表的な製品であり、その成長はブランド全体の成功を象徴しています。初めは地元での販売が中心でしたが、徐々に全国展開を果たし、現在では多くのファンに支持されています。 - 多様な製品ラインナップ
ヤッホーブルーイングは、多様な製品ラインナップを持つことで、幅広い顧客層にアピールしています。例えば、「よなよなエール」「インドの青鬼」「水曜日のネコ」など、個性的なクラフトビールを次々に生み出し、顧客の興味を引き続けています。
ヤッホーブルーイングの成功要因
ヤッホーブルーイングの成功には、いくつかの重要な要因があります。以下に、その主要な要因を挙げて詳しく説明します。
- ストーリーテリングの力
井手氏は、よなよなエールの成功の一因として「物語の力」を挙げています。製品には物語があり、その物語が顧客の心を動かすのです。例えば、よなよなエールの誕生秘話や最大の危機を乗り越えたエピソードなど、感動的なストーリーが顧客の共感を呼び、ブランドへの愛着を深めました。 - 社員とファンの一体感
井手氏は、社員とファンを一つのチームとして捉え、その一体感を大切にしています。例えば、ファンイベント「宴」では、社員とファンが直接交流し、共に楽しむことで強い絆が生まれます。このような取り組みが、顧客のマインドロイヤルティを高める要因となっています。 - クレーム対応の重要性
クレームは企業にとってネガティブな要素と捉えられがちですが、井手氏はこれを「感動に変えるチャンス」として捉えています。真摯に対応することで、顧客との信頼関係が強化され、結果としてマインドロイヤルティが向上します。 - トップのリーダーシップ
井手氏のリーダーシップも成功要因の一つです。彼のビジョンとミッション、社員の育成、顧客第一主義、挑戦と革新、そして社員の幸福を重視する姿勢が、ヤッホーブルーイングの成長を支えています。
井手直行氏のリーダーシップ
ヤッホーブルーイングの成功には、井手直行氏のリーダーシップが大きく寄与しています。彼の経営哲学と実践的なアプローチが、企業全体の成長とマインドロイヤルティの育成に大きな影響を与えています。以下に、井手氏のリーダーシップの具体的な要素を詳しく見ていきましょう。
1.ビジョンとミッション
井手氏は、ヤッホーブルーイングのビジョンとして「世界一のクラフトビールメーカーになること」を掲げています。このビジョンに向かって、社員一人ひとりが情熱を持って取り組むことで、ブランド全体の成長が促進されています。
- 社員の育成
井手氏は、社員の育成にも力を入れています。社員が自分の仕事に誇りを持ち、楽しんで働ける環境を整えることで、自然と顧客にもその熱意が伝わるようにしています。例えば、定期的な研修やチームビルディング活動を通じて、社員のスキルアップとモチベーション向上を図っています。 - 顧客第一主義
井手氏の経営哲学の中心には、常に「顧客第一主義」があります。顧客の声に耳を傾け、そのニーズに応えることが最優先とされています。例えば、顧客からのクレームや要望に対して迅速かつ丁寧に対応することで、顧客の信頼を得ることができます。この姿勢が、マインドロイヤルティの育成に大きく寄与しています。 - 挑戦と革新
井手氏は、常に新しい挑戦と革新を追求しています。現状に満足せず、常に改善と進化を続けることで、ブランドの魅力を維持し続けています。例えば、新しい製品の開発や新市場への進出など、積極的な取り組みが顧客の期待を超える結果を生み出しています。 - 社員の幸福
井手氏は、社員の幸福を重視しています。社員が幸せであることが、顧客にも伝わり、結果としてブランド全体の成功につながると考えています。例えば、働きやすい環境の整備や、社員同士のコミュニケーションを促進する取り組みを行っています。これにより、社員のモチベーションが向上し、顧客へのサービス品質も向上します。
マインドロイヤルティ育成の為の具体的取り組み
ヤッホーブルーイングを成功に導いた取り組みは様々あります。今回は、その中でも「マインドロイヤルティ育成」につながる取り組みをいくつかご紹介します。
- パーソナライズされたコミュニケーション
顧客一人ひとりに対してパーソナライズされたコミュニケーションを行うことが重要です。井手氏は、顧客の声に耳を傾け、そのフィードバックを製品やサービスに反映させることで、顧客の期待に応え続けています。 - 継続的なエンゲージメント
顧客との継続的なエンゲージメントを図るために、定期的なイベントやキャンペーンを実施しています。これにより、顧客は常にブランドと接触し続けることができ、マインドロイヤルティが強化されます。 - 社内文化の醸成
社員がブランドに対して強い愛着を持つことも、マインドロイヤルティの育成に不可欠です。井手氏は、社員が自社製品を誇りに思い、楽しんで働ける環境を整えることで、自然と顧客にもその熱意が伝わるようにしています。 - ファンイベント「宴」
「宴」は、よなよなエールのファンと社員が直接交流する場として定期的に開催されています。このイベントでは、ビールの試飲や製造過程の見学、さらには社員との対話を通じて、ファンはブランドへの理解と愛着を深めることができます。これにより、顧客は単なる消費者からブランドの一部としての意識を持つようになります。 - クラフトビールの多様性
よなよなエールは、常に新しいクラフトビールを開発し続けています。これにより、顧客は常に新しい体験を求めてブランドに戻ってくることができます。新製品の発表や限定ビールの販売は、顧客の興味を引き続ける重要な要素です。 - ソーシャルメディアの活用
ソーシャルメディアを活用したコミュニケーションも、マインドロイヤルティの育成に大きく寄与しています。井手氏は、SNSを通じて顧客との対話を積極的に行い、リアルタイムでのフィードバックを得ることで、顧客のニーズに迅速に対応しています。
マインドロイヤルティ育成の効果
マインドロイヤルティを育成する事には様々な効果がありますが、本書を通じて確認できる主な効果は以下3つです。
- 長期的な顧客関係
マインドロイヤルティが育成されることで、顧客は長期的にブランドを支持し続けます。これは、単なる価格競争に巻き込まれることなく、安定した売上を確保するための重要な要素です。 - ブランドの差別化
競争の激しい市場において、マインドロイヤルティはブランドの差別化に大きく貢献します。顧客がブランドに対して強い愛着を持つことで、他の製品やサービスに対する興味が薄れ、結果としてブランドの独自性が際立ちます。 - ポジティブな口コミ
マインドロイヤルティを持つ顧客は、ブランドに対してポジティブな口コミを広める傾向があります。これにより、新規顧客の獲得が容易になり、ブランドの認知度と信頼性が向上します。
マインドロイヤルティの未来
現代社会における喫緊の課題に対しても、「マインドロイヤルティ育成」はますます重要になっています。以下3つの象徴的な課題に対して、ヤッホーブルーイングがどのように取り組んでいるかをご紹介します。
- デジタル時代の挑戦
デジタル時代において、マインドロイヤルティの育成はますます重要になっています。オンラインでの顧客との接点が増える中で、いかにしてパーソナライズされた体験を提供し、顧客の心を掴むかが鍵となります。ヤッホーブルーイングは、デジタルマーケティングやSNSを活用したコミュニケーション戦略を駆使し、顧客との絆を深めています。例えば、オンラインイベントやライブ配信を通じて、顧客とリアルタイムで交流する機会を増やしています。 - グローバル展開
よなよなエールは、国内市場だけでなく、海外市場にも積極的に進出しています。グローバルな視点でのマインドロイヤルティの育成は、異なる文化や価値観を理解し、現地の顧客に合わせた戦略を展開することが求められます。ヤッホーブルーイングは、現地のパートナー企業と協力し、各国の市場に適した製品やサービスを提供することで、グローバルなファンベースを築いています。 - サステナビリティと社会貢献
現代の消費者は、企業の社会的責任やサステナビリティに対する関心が高まっています。ヤッホーブルーイングは、環境に配慮した製品開発や地域社会への貢献活動を通じて、顧客の信頼を得ることに努めています。例えば、再生可能エネルギーの利用やリサイクル素材の活用など、環境負荷を軽減する取り組みを積極的に行っています。
まとめ
『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』は、単なるビジネス書ではなく、マインドロイヤルティの育成に関する貴重な教訓が詰まった一冊です。井手氏の実践的なアプローチと情熱が、よなよなエールを成功に導いたことがよくわかります。この本を通じて、企業が顧客との深い絆を築き、長期的な成功を収めるためのヒントを得ることができるでしょう。
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- 田中 瑞樹
- この記事は田中 瑞樹が執筆・編集しました。
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