マスターデータマネジメント(MDM)とは?~企業のデータ活用推進の取り組み~

- インプットポイント
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- マスターデータマネジメントの概要・メリットについて知ることができる
- マスターデータマネジメントに必要なことについて知ることができる
企業が自社のデータ活用を推進/拡大させていく上で避けては通れない活動が、マスターデータマネジメント(以降、MDM)です。本記事では、MDMとはどのような考え方か、MDMがなぜ必要なのか、その重要性について、ビジネス上のいくつかの観点からご説明したいと思います。
本記事を読むことで、MDMの基本的な概念や考え方、その必要性について理解することができます。
マスターデータマネジメント(MDM)とは?
MDMを一言で申し上げると、「企業が保有するマスターデータを一元管理する仕組み」のことです。マスターデータとは、ビジネス活動を推進する上で欠かせない資源を表すデータです。人事データや財務系データ、モノ系データ等が該当します。
MDMの目的は、先に述べた様々なデータを統制/統一することで、共用性の高いマスターデータを全社的に利用できるようにすることにあります。
大きな企業ほど、そこで取り扱われるデータは膨大です。そういった企業では、組織レイヤー/部門/グループ企業ごとにマスターデータを保有し、管理や運用方針が異なっていることがほとんどです。会社内でバラバラの状態のマスターデータを統一させて、ステークホルダーが共有のデータを使えるようにしよう、というのがMDMの基本的な考え方となります。
MDMが機能しないとどうなるか
MDMがうまくできていない場合、業務部門の担当者は自分たちの業務を最優先に考えてマスターデータを運用します。その場合に生じる、代表的な問題点を3つに絞って列挙します。
データ連携の複雑化
業務部門別にマスターデータを作成している場合、複数のマスターデータを連携しなければなりません。データの整合性確保のために、データのチェック/コード変換等を行った上で、システム再構築の際の担当者への引き継ぎ等も欠かさずに実施する必要があります。
データ汚染/認識の相違
データ統合において必ず生じる問題がデータ汚染です。冗長項目が増加したり、定義した粒度や範囲の異なるデータが増え、データが汚染されていく可能性があります。そのため、データの登録ルールやプロセスを決めてレビュー体制を組んだり、データクレンジングを行ってデータをチェックする業務を実施する必要があります。
また、同じデータ項目名でも担当者間によっては認識が異なっている場合があり、データオーナー(データの所有者)を集めて認識をすり合わせる必要があります。
管理体制の不備
そもそもMDMを実施するための判断材料や相談先の不足等、専門的な知識を持った人材が不足している場合があります。そのため、マスターデータの専門組織を作り、推進していく役割が必要となります。
3つのビジネス戦略におけるMDM
MDMが実行される背景には、必ず何かしらのビジネス戦略が存在します。ここからは、「DX戦略」「組織戦略」「M&A戦略」の3つの観点から、MDM実施の目的を述べていきます。
①DX戦略のMDM:全社員のデータ活用促進に伴う統制されたマスターデータの実現
DX戦略のMDMとは、企業のDX実現のために、領域横断で統制されたマスターデータを提供することです。ここでの「統制されたマスターデータ」とは、顧客を識別するコード値が統一されていて、かつ顧客に関する属性(データ項目)の理解が全社員に共有されている状態のことを指します。全社員が顧客満足度・サービスの向上を目的に仮説を構築し、データを活用して気づきを得ることが、DX戦略に基づくデータ駆動型経営の必須条件となります。
②組織戦略のMDM:特定の組織戦略に伴う統制されたマスターデータの実現
組織戦略のMDMとは、顧客戦略、人材戦略、物流・SCM戦略、商品戦略といった特定の組織戦略に基づき、領域横断(企業・事業・業務の横断)を実現するための手段として、統制されたマスターデータを提供することです。
この組織戦略は、企業や業界によっても異なります。例えば、製造業であれば製品の生産から販売までの一連の流れを効率的に管理するためのSCM戦略におけるMDM導入や、小売業では販売チャネルの多角化に伴う商品情報の一元管理戦略(PIM)におけるMDM導入等が挙げられます。
③M&A戦略のMDM:業務プロセスの標準化に伴う規制されたマスターデータの実現
M&A戦略のMDMとは、M&Aを多く行う企業が、合併によってバラついているオペレーション領域の業務のやり方と業務プロセスを標準化し、業務システムを再構築する際に、その手段として統制されたマスターデータを提供することです。
オペレーション業務とは、企業の事業活動におけるバリューチェーンの主活動を表しています。オペレーション領域のMDMによって、業務間の情報伝達の効率化を実現することができます。
MDM導入のメリット
ここからは、MDM導入に伴う具体的なメリットを4点述べていきます。
ビジネスパフォーマンスの向上
1つ目のメリットは、ビジネスパフォーマンスの向上です。各業務のマスターデータが統合されることで、コードが統合されます。その結果、業務を横断してデータ集計や分析が素早くできるようになるため、業務改善における意思決定とスピードが向上します。
コミュニケーションの効率化
2つ目のメリットは、コミュニケーションの効率化です。MDMの導入により、各業務のマスターデータが統合され、データ項目名や値が共通化されます。共通化によって、全社共通の標準語が作られるため、部署間でのコミュニケーションのスピードが向上します。
たとえ同じ商品であっても、部署によってはカテゴリだけで判別する場合と、さらに細かい粒度で判別している場合があったりします。企業全体で定義を決めて運用することで、両部署のコミュニケーションの齟齬を防ぐことができます。
コンプライアンスの対応
3つ目のメリットは、コンプライアンスの対応です。MDMの導入によりマスターデータが一元管理されることで、マスターデータの散在によって想定される法的リスクや社会的信用を失うリスクを最小限に抑えることができます。顧客データが複数のDBに個別で保持されている場合、管理上のリスクが高いことは言うまでもありません。
オペレーションコストの削減
4つ目のメリットは、オペレーションコストの削減です。MDMの導入によりマスターデータが一元管理されることで、複数箇所での管理業務に伴うコストが削減されます。
上記のように、MDMの導入によって、経営層からマネジメント層、オペレーション層まで、幅広いステークホルダーにメリットが存在しています。
MDM実現のために必要なこと
ここまで、MDMの重要性や導入に伴うメリットについて述べてきました。MDMが機能していないことによって、マスターデータが分断され、企業のデータ活用が非効率的になることがお分かりいただけたかと思います。
では、MDM実現のためには、何が必要なのでしょうか。データの分断を避けるために必要なことは、標準形式データの生成です。標準形式データとは、同じ意味をもつデータを統合し、意味を定義し、値やフォーマット、ネーミングを標準化したデータのことです。
ある特定の商品を指すデータに関しても、部署が異なるとその粒度や意味合いが異なる場合があります。企業全体で統一された標準形式データを作ることで、同じ認識で商品を紐づけることが可能になります。
そして、企業全体の標準形式データを作るためには、ファシリテーターの存在が不可欠です。ファシリテーターが概念の認識合わせをデータオーナー間で行い、共通認識を作り、企業全体で足並みを揃えることで、初めてMDMが実現するのです。
まとめ
多くの部署/人材を保有する企業様にとって、社内のステークホルダーを束ねつつ、データ活用に向けて企業全体をファシリテーションすることは、非常に難しい作業です。
そういった背景もあり、最近では弊社ファーストデジタルにも、企業全体でデータ活用を推進していくための前段として、MDMに関連するご支援のご相談を多くいただいております。弊社では、データ活用やMDMに関するご支援に関して、多くの実績を有しておりますので、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。
本記事執筆にあたり、下記書籍を参考にさせていただきました。当該書籍では、MDMを進める上での基盤構築・組織作り・教育体制に至るまで、詳細に掲載されているため、ご興味のある担当者様はご一読いただければと思います。
参考書籍
『DXを成功に導くマスターデータマネジメント』(株式会社翔泳社/データ総研・伊藤洋一)
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- 井上 陽貴
- この記事は井上 陽貴が執筆・編集しました。
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