2022.07.28

なぜ御社のDXは失敗するのか

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なぜ御社のDXは失敗するのか
インプットポイント
  • DX実現のためには、デジタル以前に、自社のビジネスを深く理解することが必要。
  • 一方で、令和の時代として当然実現出来ているべきデジタル化がまだ出来ていなければ、即座に実施すべき。
  • そもそもDXに失敗するパターンは、大半がDX以前の問題。

経済産業省が2018年9月に『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』を発表して以来、俄にDXがビジネストレンドと化してから早4年が過ぎようとしています。 市場には「DXを実現する〇〇」というツール・サービスが雨後の筍のように乱立し、DX市場の規模は2030年には3兆円に届くとまで言われており、まさに現代のゴールドラッシュと呼べる状況にあります。(ゴールドラッシュで最も儲けたのはリーバイス、という逸話もありますが)

一方ITメディアでは「DX失敗」をテーマとした特集が頻繁に組まれるようになり、DXというワード自体が、ハイプサイクルで言うところの幻滅期に入りつつある雰囲気も漂っています・ この記事では、今まさにDXに取り組んでいる、あるいは一度取り組もうとしたが既に断念した、という企業の皆さまに向けて、なぜDXが失敗するのか、どうすれば失敗することなくDXを実現できるのか、のヒントをご紹介します。

失敗する理由①:いきなりツールを導入する

デジタルトランスフォーメーションとは何か、を一言で言ってしまえば「自社のビジネスを、デジタルというツールを用いて変革する取り組み」と、筆者は捉えています。

ここで、現在導入を検討、あるいは既に導入したツールの売り文句を今一度振り返って頂きたいのですが、往々にして「DXを実現する〇〇」を謳うツールには、枕詞として「バックオフィスの」というワードが付いていることに気づくのではないでしょうか。

あるいは「データの有効活用により御社のDXを後押しします」といったワード。

これらの導入がなぜ失敗に繋がるのかと言えば、身も蓋もない話ではありますが、画一的なDXというものはあり得ないから、という一言に尽きます。

つまり、DXの本質とは「既存の競合他社、あるいは潜在的に将来競合となりうる市場の他社と比較した自社の強みを、デジタルというツールにより、さらに強化するための取り組み」であり、「ツールを導入すればDXが実現できる」という類のものではない、ということが理解できるでしょう。

そもそもの自社の強みの理解、強みをどうデジタルというツールにより伸ばしていくのか、という企業としての戦略を定義することなく、短絡的に「DXを実現するツール」の導入に走ってしまえば、ツールの導入に必要な費用、導入のために工数を割かねばならない社員の工数といった、本来DXの実現に振り分けるべきであった貴重なリソースを失うことになります。 (なお、まず戦略を検討してはみたものの、自社の強みが分からなかったという場合も、検討の過程で得たデジタルというツールに対する知見をベースに新たなビジネスを立ち上げる、という、まさに本来のDXへの取り組みを行うための準備ができたと捉えることもできます。聖書にも「貧しい人々は、幸いである」と書かれています)

失敗する理由②:適切なツールを導入しない

いきなりツールは導入するなと言ったかと思えば、今度はツールを導入しろとはどういった了見か、と戸惑われている方もいらっしゃるでしょう。

そもそも、デジタルトランスフォーメーションを実現する前段階として、

  • デジタイゼーション
  • デジタライゼーション

の段階が存在する、と言われています。

(最近は、「守りのDX」や「モード1のDX」などと呼ばれていたりもします)

ざっくりと説明すると、デジタイゼーションとは「アナログ情報のデジタル化」であり、デジタライゼーションとは「業務プロセスのデジタル化」です。

つまり請求書や領収書、契約書といった紙の情報をデジタル化する取り組みがデジタイゼーション。(企業活動においてはほぼペーパーレスと同義と考えても良いでしょう)

適切なツールの活用により、請求書の発行・送付や、契約書の送付・押印・返送といった業務プロセス自体をすべてWeb上で行えるようにするのがデジタライゼーション、というイメージです。

適切なツールを導入しないことがDXの失敗理由、と書いたのは、すなわちデジタイゼーション、デジタライゼーションすら実現出来ていない段階で、DXなど実現しようもない、ということです。

閑話休題、デジタイゼーション・デジタライゼーションが進まない理由

DXの前段階たるデジタイゼーション、デジタライゼーションですが、こちらも遅々として進まないと頭を抱えている企業も少なからず存在することでしょう。

なぜデジタイゼーション、デジタライゼーションが進まないのかと言えば、これはもはや「例外を認めてしまう」ことが原因と断言してしまってよいでしょう。

たとえばあなたが社長だったとして、「全社で1年以内にペーパーレスを実現する」と宣言したとしましょう。

おそらく、1年後に実際にペーパーレスを実現できている業務は、半分にも満たないことでしょう。

一部の業務のみがペーパーレス化しても、その他の大半の業務が例外、例外、例外の積み重ねで紙での運用を続けていれば、ペーパーレスを実現した領域においてもペーパーレスによるメリットはほとんど0になってしまいます。

そして、なぜ例外が発生してしまうのかといえば、結局は指示をした側もされた側も、さほど真剣に実現をしようとしていない、ということに尽きます。

なぜペーパーレスが実現できないのか?と現場の社員に聞けば、「自分の担当している取引先は大口の顧客だが、彼らが紙の発注書を望んでいるからだ」といった回答が返ってくるに違いありません。

しかし実際のところは、彼らは今まで慣れ親しんできた紙での業務に特段の不自由を感じておらず、わざわざ顧客と調整をするストレスのほうが大きいため、できる限り回避したいというだけの理由で、軽い口頭での頭出し程度で諦め、さほど真剣に交渉をしていない可能性が高いのです。場合によっては打診すらしていない、というケースも多いはずです。

このような状況を打破し、デジタイゼーション・デジタライゼーションを一刻も早く実現するためには、担当者が現状を維持するコストの方が大きい、という状況を作ってしまうことが効果的です。

たとえば紙での発注書・物理的な押印必須、というような運用を続ける取引先に対しては、担当者に、毎月の発注書と合わせ先方の部長級から「紙面による発注書の継続依頼書」を紙面かつ対面で頂くルールを設定します。依頼書の提出が一度でも滞った場合には即座にマイナス査定、次年度から減給とルール化すれば、彼らも本気でペーパーレスの実現に向けて顧客と交渉するでしょう。 逆に言えば、そこまでの大鉈を振るわなければ、デジタイゼーション、デジタライゼーションすら実現するのは難しい、ということでもあります。

失敗する理由③:検討をSIerやコンサルに丸投げする

ツールの導入を行う前に、まずは自社の強み、今後取るべき戦略について検討すべき、と書きました。

しかし、そのような検討に不慣れであったり、あるいは検討を行った上で、自社の強み・今後の戦略を、どのようにデジタルというツールを用いて実現すべきか考えたいが、デジタルに対する知見が足りず、今後の進め方が分からない、という悩みに直面したり、自社だけでDXを実現するのは容易ではありません。

この場合に、自社の強みの分析や今後取るべき戦略の検討のためにコンサルを利用する、あるいは採りたい戦略を実現するために、具体的なシステムの検討を行うべくSIerを利用する、というのは良いアイデアです。

ただし、いきなりツールを導入すべきでない、というお話と同様に、何をすれば良いのか分からないのでとりあえずコンサルを呼んでいい感じに検討してください、と検討主体そのものをコンサル/SIerに委譲してしまうのはアンチパターンです。

コンサルはアイデアを出したり、戦略をまとめたり、戦略の実行をサポートする専門家ですが、そもそもの自社の強み、自社のオペレーションに最も詳しいのは自社の社員です。他社との差別化要素となる強みを社員がきちんと把握し、その上でその強みをどうデジタルに落とし込んでいくか、という部分を専門家のコンサルがサポートする、という二人三脚が実現できれば、DXの実現に向けて前進でき、大きな費用対効果を望めるでしょう。

まとめ

DXへの取り組みの失敗パターンと、その対策というテーマでお話を進めてきました。

DXとはツールの導入や利用といった表面的なデジタル化の取り組みではなく、デジタルというツールを用い、ビジネスそのものをアップデートする取り組み(ゆえにトランスフォーメーション)である、ということがご理解頂けたのではないかと思います。

また、言い換えればDXとは「バブル崩壊後の失われた30年の中で後回しにされ続けてきた、ビジネスモデルを時代に合わせ変革し続ける営み」そのものである、とお気づきになった方もおられるのではないでしょうか。

平成の時代の中でほとんどの企業が成功し得なかった営みを、今まさに成功させねばならない、という難題にいよいよ背水の陣で取り組まざるを得なくなったがゆえに、これほどまでにDXというワードが盛り上がっている、という捉え方もできるでしょう。

つまり、これまで取り上げてきた失敗例は、実のところまだそれだけではDXの失敗とは言えません。これらの失敗例に嵌まった結果、DXへの取り組みそのものを諦めてしまうことこそが、DXの失敗なのです。

編集後記

当初、レガシーシステム(というか、経済産業省としてはバイネームでの指摘は避けたかったのでしょうが、実際はバブル期に導入したまま経営が悪化し更新できていないまま残った古いバージョンのSAPのERPを指していたことは明らかです)の刷新に膨大な費用がかかる、というお話から端を発した「2025年の崖」問題も、いつの間にか「日本という国家が少子高齢化等の社会問題を多数抱える中で、経済大国としての地位をいかに守るか」という国家戦略の問題にまで話が広がってきたように感じております。

その中で、「とはいえ自分が定年退職するまではなんとか会社も耐えられそうだし、デジタル化なんて面倒なことには関わらずにビジネスパーソンとしての人生を全うしたい」と感じ、DX自体に否定的な方も世の中には実は多いのではないでしょうか。
しかし、DXは必要です。

なぜなら、紙での業務、対面での調整、90年代から変わっていないUIの非常に使いづらいシステム、といった環境では、若い社員を確保し、継続して雇用し続けるのは非常に難しくなってきているからです。
彼らは分からないことがあればスマホで検索(音声でも!)し、友人に説明する際には写真を撮ってLINEで送り、飲み会の出欠確認もWeb上の無料ツールで行っているような世代です。

なんとか会社の安定性とネームバリュー、福利厚生で新入社員を確保することは出来たとしても、転職が一般的になってきた昨今、旧態依然の業務環境に見切りをつけ早期に離職する社員が年々増えていることには、すでに皆さま気づいておられるでしょう。
そのような状況で、なんとか定年までを乗り切ろうとしても、自身が指示をして仕事を任せられる若手社員は櫛の歯が欠けるように減っていき、自身で手を動かさざるを得ない状況が増えていきます。(なんのために昇進したのか!)

さらには、ようやく上のポストが空いたとしても、自分がそのポストに納まるころには、結局昇進前と人数が変わらないか、下手をすればもっと少ない部下、責任は増えても増えない給料、悪化した自社の経営状況から強いられる以前より厳しい目標と、決して幸せとは言えない晩年を迎えることになるでしょう。
そのようにして40年以上勤め上げた愛する我が社の名前を定年退職後に耳にするのは、「粉飾決算」や「経営悪化により倒産」と、あまり聞きたくはないニュースの場面のみになるかもしれません。
定年後にニュースで「堕ちた名門」などと呼ばれる、生涯を捧げた自社の姿は見たくないことでしょう。
そんな老後を避けるためにも、もはやDXは待ったなしの状況なのです。
マガジン編集部
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この記事はマガジン編集部が執筆・編集しました。

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