【事例紹介】プロジェクトマネージメントのフレームワークを活用した働き方改革
- インプットポイント
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- 「プロジェクトマネジメント」の理論構築し、社内標準化や実践していく方法を知る。
- 一般標準のフレームワーク/理論を、クライアント事情に合わせてカスタマイズする方法を知る。
- プロジェクト概要:社内標準のルール・教科書的資料の作成、研修プログラムの開発、評価制度の改革、期間約2年
- INDEX
根性だけでなんとか乗り切る働き方が課題。「プロジェクトマネジメント」は働き方を変える切り札となるか?
プロジェクトマネジメントに対する、正しいやり方や考え方を全社に浸透させ、スマートで効率的な働き方ができる体質に変えたい」というのが、今回のクライアントのリクエストだった。
クライアントは、得意先ニーズに合わせて、幅広い種類の案件を完遂できる「対応力」が評判のデジタル制作プロダクションである。個々のプロジェクトにおける「対応力」に対する評判と自負がある一方で、「なんでもできるが器用貧乏」、「根性だけで乗り切る」、「達成感はあるがくたびれている」といった負の側面も散見されていた。仕事の進め方が、チーム毎にバラバラで、案件に応じて都度カスタマイズしていたので、非効率な働き方になる事が多かったからだ。
クライアントはそのような負の側面の払拭を狙い、「対応力一辺倒な働き方からの脱却」を、全社方針に掲げた。仕事のやり方や考え方を、スマートで効率的なものに抜本的に変える事で、余裕をもって楽しく仕事ができる働き方の実現を狙った宣言であった。
そのような状況において、「プロジェクトマネジメントに関する世界標準の知識体系(フレームワーク)であるPMBOKを活用する」というアイデアが浮上した事をきっかけに「プロジェクトマネジメントの総合力強化」を目的とした全社プロジェクトが立ち上がり、そのプロジェクトを推進するコンサルタントとして、弊社に白羽の矢がたった、というのが背景である。
ビジネス事情にマッチする全社標準の理論を作り、実践していくにはどうすればいいのか?
「クライアント社内事情に合わせたプロジェクトマネジメントの理論化」が、今回のプロジェクトの肝だった。社員が使いやすく、納得感の高い社内標準の理論でないと、現場で使ってもらい、社内に浸透させる事は難しいからだ。
その為、今回のプロジェクトではフェーズを3つに分け、その内容を以下のように定義した。
①理論を作るフェーズ
②理論を実践させるフェーズ
③理論を浸透させるフェーズ
これら、①〜③の各フェーズでの主な取り組みを、以下、ご紹介する。
「①理論を作るフェーズ」の取り組み
特にこのフェーズには時間をしっかりかけ、多くの関係者を巻き込み、じっくり取り組んだ。具体的な取り組み内容は「社内標準の教科書の作成」である。世界標準のフレームワークPMBOKを、クライアント社内向けにカスタマイズし、「PMフレームワーク概論」という名称の社内標準の教科書的資料として完成させた。
PMBOK自体はそのまま使うには複雑すぎて、クライアントのビジネス事情には即していない。
そのため教科書として作成するに当たっては、しっかり現場の声を吸い上げるプロセスを重要視した。プロジェクトマネージャー経験者に社内インタビュー調査をかけたり、最もプロジェクトマネジメントのスキルの高い方に監修に入ってもらったり、一度作ったパイロット版を現場マネージャーに見せてフィードバックをもらい調整をかけたり、といったプロセスが一例である。
また、現場業務をイメージしやすい資料にする為、資料内にクライアントの実際の事例やドキュメントを、できる限りたくさん載せる工夫も行った。
結果として、パイロット版の作成に約半年、最終版の完成には約1年半を要する長期の施策となった。
「②理論を実践させるフェーズ」の取り組み
このフェーズでは、「PMフレームワーク概論基礎研修」を企画し、展開した。
これは、将来のプロジェクトマネージャーを担う若手人材を対象とし、「PMフレームワーク概論」の基礎知識を学び、擬似体験できる研修として開発したプログラムである。フレームワークの概要を習得する為の座学だけでなく、それを疑似体験できるケーススタディのワークショップも組み込んだ研修プログラムとなっている。
初期の研修の講師は弊社コンサルタントが務めたが、将来的にクライアント社内で研修の展開を完結できるよう、研修マニュアルの作成・ブラッシュアップも研修の実施と並行して行った。
研修後に参加者に対して実施した事後アンケートで、「満足できた」・「業務に示唆があった」といった高評価の声が圧倒的多数を占めた事もあり、この「基礎研修プログラム」に対するクライアント評価は非常に高いものとなった。
「③理論を浸透させるフェーズ」の取り組み
このフェーズで行った主な取り組みとして、「プロジェクトマネジメント視点の評価制度改革」をご紹介する。
これは、単純に現評価制度にプロジェクトマネジメントのスキル評価項目に加えるだけでなく、社員がキャリアパスとして、プロジェクトマネージャーを目指したいと思えるような評価制度に変革する事をゴールに構築した施策である。
具体的には
- 評価項目の追加
- キャリアパスの価値化
を行っている。
まず、「評価項目の追加」について、「PMフレームワーク概論」にて、スキル・マインド・経験の観点から定義していた18個の「プロジェクトマネージャー理想人材要件」を、評価制度の視点から39個の項目まで更に細分化し、「追加評価項目」として定義した。
追加評価項目においては妥当性検証として、プロジェクトマネージャーの役割を担う営業部署の協力の下、評価スコアリング調査も行っている。調査の結果、各部員の評価スコアは違和感のないものであったため、納得感を持って評価項目に加えることができた。
次に、「キャリアパスの価値化」については、そもそもの既存の職種定義からして課題を抱えていた。
社内の実情としてプロデューサーもしくはディレクターがプロジェクトマネージャーの役割を兼務しており、プロジェクトマネージャーは「職種」としては厳密には存在していなかったのである。
その為、まずはプロジェクトマネージャー・プロデューサー・ディレクターの職種の違いを明確に定義し、「PMフレームワーク概論」にて社内公式見解として発表することからのスタートとなった。
公式見解の発表によりプロジェクトの枠を超えて社内においても評価制度にも絡む「役職」に関する議論が進み、プロジェクトマネージャーは「役職」として新設され、キャリアパスとして社員がオフィシャルに目指せるものとなった。
これらの評価制度改革は、関係するステークホルダーも多岐に渡り、協議・調整に時間を要する取り組みであったが、「改革の為の道筋はつくれた」という評価をいただける結果となった。
現場で使える理論を形にした情報資産を残せれば、ずっと活用できる資産となる。
「①理論を作るフェーズ」の前段として最初の半年で作成した「PMフレームワーク概論 パイロット版」が高い評価を受けた事で、次年度の契約継続につながり、結果的に約2年間の長期プロジェクトとなった。
社内への綿密なヒアリングを通じ、絵に描いた餅ではないクライアント事情に合わせたプロジェクトマネジメントの理論化ができたおかげで、今後も活用できる資産(社内標準の教科書・評価項目・基礎研修マニュアルetc.)を残せた事は、今回のプロジェクトにとって一番の成果だった。
世界標準のフレームワークといっても、そのまま活用したら「絵に描いた餅」で終わってしまう。現場では使える武器にするには、現場の声を吸い上げるプロセスや、現場にわかってもらえる工夫が重要である。そうして出来上がった成果物は、プロジェクトが終わった後も、活用や応用が可能な顧客にとっての資産となる。今回のプロジェクトの成果が、今後も実践の場で、更に活用される事を願っている。
Profile
- 田中 瑞樹
- この記事は田中 瑞樹が執筆・編集しました。
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