そのDXは投資ですか?
- インプットポイント
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- 国際社会において日本企業の競争力を保つにはDXが不可欠
- 日本におけるデジタル投資の現状は、もはや投資ではなく借金返済が必要な段階
国際経営開発研究所(IMD)より2022年版の「世界デジタル競争力ランキング」が発表され、日本は前年からさらに1つ順位を下げて、全体63カ国中29位となりました。今回はこちらの調査から、興味深い項目をピックアップしつつ、今後日本のビジネスパーソンが意識すべき内容について掘り下げていきたいと思います。
ランキングを読み解く
冒頭申し上げた通り、日本のデジタル競争力は29位と非常に低い結果になりました。
中でも、
- 「知識」のカテゴリにおける、デジタルスキル(62位)
- 「技術」のカテゴリにおける、ビッグデータ活用と分析の順位(最下位)
- 同じく「技術」のカテゴリにおける、企業の変化に対する機敏さ(最下位)
の評価の低さは際立っており、目を引きます。
※デジタルスキルは、エンジニアなど技術者側のスキルに限らず、利用者側におけるいわゆるITリテラシーも含まれていることに注意
遡ること6月には、同じくIMDより2022年版の「世界競争力ランキング」も発表されており、こちらでも日本は34位と振るわない結果となっております。
このランキングにおいても企業の俊敏性、市場の変化に対する感度、効率性、生産性の面で軒並み最低に近い位置付けを与えられており、デジタルにおける競争力の低さがビジネスにおける競争力の低さに直結していることは明確なのではないかと思います。
これら結果について、特にデジタル競争力については、一般的にデジタル化が進んでいる欧米、特に北米や北欧のランキングが高いために、相対的に日本の順位が低くなっているだけでは?と感じられる方もいらっしゃるでしょう。
しかし実際のところは、地域別ランキングで東アジアは全カテゴリにおいて1位となっており、アジアという枠組みで見ても日本のデジタル化が進んでいないことは明白です。
どこに問題があるのか
前項のように極めて残念な結果となった調査ですが、一方でいくつかの項目においては非常に高い評価を得ています。
具体的には、評価の高かった項目としては
- ロボットに関する研究開発および教育(4位)
- ワイヤレスブロードバンド通信の環境(2位)
- ロボットの活用(2位)
となっています。
すなわち、日本のビジネスにおいては今なお生産においては世界をリードしている一方で、営業・販売・マーケティングやバックオフィスの生産性という面において世界標準を著しく下回っている、ということが言えるのではないかと思います。
つまりは、ここ数年叫ばれ続けているDXの必要性、という議論に帰結します。
DXに必要なもの:発想の転換
今なお遅々として進まないDXですが、その要因の一つに、デジタル活用を過去のビジネス活動の延長線上で考えている、ということが挙げられるのではないかと思います。
たとえば電話、あるいは携帯電話が普及したことにより、それまでは郵便や対面でなければ不可能だったコミュニケーションが遠隔で行えるようになりました。またEメールの活用が一般化したことで、非同期でのコミュニケーションが可能になりました
しかしこれらは、あくまでそれまでの郵送や対面によるやり取りをより便利に行えるようになったというだけで、ビジネスの進め方自体は過去の延長にあるものです。
DXにおいては、デジタル技術の特性を把握し、デジタルファーストでの業務の再構築というパラダイムシフトが必要になります。
すなわち、
- 人的運用に比べ初期コストは大きいがランニングコストは小さい
- 定形処理や大量の処理に強みを持つ
- 複雑な判断や曖昧な指示への対応は難しい
という特性を踏まえ、まずは全ての業務をゼロベースでデジタルによる再構築を目指す必要があるのです。
その上で、どうしても複雑な判断が必要な場面において「人間がデジタルツールを補助する」というスタンスで業務フローを設計していく必要があります。(NTTドコモ社のahamoなどはその意味でもDXにおけるの良い取り組みの例ではないでしょうか)
昨今見られる大半のDXへの取り組みのように、既存の業務フローは最大限維持したまま、人的運用の負荷を減らすためにデジタルツールを利用して「人間の補助をする」という発想では、コストばかりがかかり成果はほとんど得られない、という結果に終わってしまいます。
そのDXは投資ですか?
DXへの取り組みにおいては、DXへの投資には効果が出る閾値が存在する、という点も理解しておく必要があります。
たとえばマーケティングにおいては、1度のキャンペーンにおいて1000万の予算を投下すると1000人のユーザーを獲得できるとしても、100万の投資では100人のユーザーを獲得できるとは限らない、場合によっては1000万未満の投資では獲得ユーザーは限りなく0に近い、ということが起こり得ます。
この場合、逐次予算を投下してトータルでは1億円以上の投資額に達したとしても、1回の投資で閾値である1000万を超える投資を行わない限りは、何の成果も得らないことになります。
DXへの投資もこれに似た部分があります。
例えばごく一部の部署のみにチャットツールを導入したとしても、その部署と別の部署のコミュニケーションが頻繁に発生するのであれば、単にコミュニケーションの経路が増えただけでむしろ生産性が下がる可能性すらあります。
また、その投資が本当に「投資」なのかどうかも吟味が必要です。
例えば競合他社に対しデジタル化が遅れているがために、採用や生産性において遅れを取っているとするならば、そのギャップを埋めるための出資はもはや「投資」ではなく「借金返済」と捉えたほうが良いのではないでしょうか。
ペーパーレス化ができておらず全てのデータはデジタル化されていない、チャットやWebミーティングツールが導入できておらずリモートワークができない、紙の領収書で経費精算を行っており必ず経理に書類の提出が必要etc etc……
そのような状況におけるDXへの投資は、残念ながらもはや「費用対効果の見極めのためにスモールスタート」ができるレベルを超え、計画的に返済が必要な借金と化していると捉えるべきです。
グローバル化の進む現在、製品開発だけではなく営業や販売、さらには人材の採用に至るまで、今後ますます海外の競合との競争は激化するでしょう。
そのような環境の中で、データを活用し、ルーチンワークを廃して生産性を向上させ、従業員のクリエイティビティを最大限に発揮させて企業として生き残っていくためには、まずその前提条件として全ての情報をデータ化し、業務を自動化できる地盤づくりが必要不可欠です。
一方で企業体力的にDXへの対応は難しい、という場合には、いっそ極めてドラスティックな方向に振り切るのも、戦略としては有効かもしれません。
DXは、デジタルであるがゆえに、投資額においても対応の有無においても、0か1かの極めて明確な選択を強いてくるのです。
- マガジン編集部
- この記事はマガジン編集部が執筆・編集しました。
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