クレジットカード業界における最新データ活用事例
- インプットポイント
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- クレジットカード業界におけるデータ活用事例を知ることができる
- 銀行業界におけるデータ活用事例を知ることができる
- 自社のデータ活用の方向性を知ることができる
以前執筆した記事で、新聞業界におけるデータ活用の事例をいくつかご紹介した。元記事はこちらから読むことができる。
新聞業界というデータやデジタルとは縁遠い業界においても、着実にデータ活用の波が押し寄せていることがお分かりいただけたかと思う。このように、自社のデータ資産を活用して新たな価値を生み出す動きは、様々な業界で活発に行われている。
筆者が顕著だと感じるのは金融業界で、特にクレジットカード業界である。 「クレジットカードに関する総合調査 2022年度版調査結果レポート」(株式会社ジェーシービー)によると、20代以上の日本人のクレジットカードの保有率は約86%、平均保有枚数は約3枚と、今や日本人のほとんどがクレジットカードを保有しており、日常的に使用していることが分かる。
最近では、クレジットカードのタッチ決済機能の普及も相まって、従来と比べてさらに利便性が増していると言えるだろう。現に筆者も、ネットの買い物だけではなく、スーパーやコンビニなどの普段の少額決済においてもクレジットカード支払いを選択している。
このようなクレジットカードの普及に伴い、カード業界全体には大きな恩恵が生じていることは想像に難くない。その1つが、データの蓄積である。特に、顧客のカード決済データは、消費者のリアルな購買行動データとして、大いに活用の余地がある。そこで今回は、クレジットカード業界におけるデータ活用と題して、実際の事例をいくつかご紹介していく。
カード業界におけるプレイヤーの整理
クレジットカード業界におけるデータ活用という観点に立つ前に、まずは業界のプレイヤーの整理から始める。ひとくちにクレジットカード業界と言っても、その役割は様々である。下記に主なプレイヤーをまとめている。
・国際ブランド(ブランドホルダー):JCB、VisaやMastercardなど、世界的に決済機能を提供しているブランド。我々がカードを作る際には、必ず選択する必要のあるブランドである。
・クレジットカード発行会社(イシュア):国際ブランドから決済機能を借りる契約(アライアンス契約)を結んでいる会社。我々が普段使用しているクレジットカードを発行している。主な会社としては、三井住友カードやクレディセゾン、楽天カードなどが挙げられる。JCBなど、国際ブランドが直接カードを発行している場合もある。
・加盟店管理会社(アクワイアラ):カード加盟店の新規開拓や審査、加盟店の管理をする会社。日本では、クレジットカード発行会社(イシュア)がその役割を担うことも多い。
・提携会社:クレジットカード発行会社と提携してカードを発行している会社。提携会社自体にカード発行機能は無いが、ポイントサービスなどの独自特典を提供している。マイルが貯まることで有名なJALカードやANAカードも、JALやANAを提携会社とした提携カードにあたる。
他には、我々が普段カードで支払っているお店そのもの(加盟店)や、加盟店とアクワイアラの間に立つ決済代行会社などもカード業界のプレイヤーに含まれる。
上記プレイヤーの中でも、最も顧客データが集まる会社は、カード発行会社である。会社によっては銀行業などの機能も兼ね備えているため、顧客の決済データ以外にも金融に関連する様々なデータを収集することができる。ここからは、クレジットカード発行会社における実際のデータ活用事例をご紹介していく。
クレジットカード会社におけるデータ活用事例
三井住友カード株式会社
三井住友カードは、顧客属性データと決済データをかけ合わせて、データ分析サービス「Custella」を開発。顧客属性情報やカード利用情報を活用し、特定のターゲットにDM配信を行う販促支援サービス「Custella Promotion」や、決済データの特徴である正確な属性や購買データをもとに、商圏における顧客理解や出店戦略など企業のマーケティング課題の解決をサポートする地図情報サービス「Custella Maps」など、顧客の消費行動を見える化できる様々なツールを提供。主にメーカーや小売店向けに提供しており、新規出店/商圏分析等に役立てられている。
株式会社クレディセゾン
クレディセゾンは、自社のクレジットカード会員のデータを貯蓄/分析するプライベートDMPを構築。自社ネット会員に対し、パーソナライズされたタイムリーな情報配信を実現するだけでなく、カード会員の属性データやカード利用情報/関連ネットサービスの利用データなどを活用した、1to1の広告/DM配信など、法人顧客に対してマーケティングソリューションを提供している。
また、2021年6月には株式会社サイバーエージェントと合同で、株式会社CASM(キャズム)を設立。クレディセゾンの持つ膨大な決済データと、サイバーエージェントが持つインターネット領域におけるサービス開発およびAI技術力をかけ合わせた、幅広いマーケティング支援を提供している。
株式会社ジェーシービー
国際ブランドでもありながらカード発行業務も行っているJCBは、最先端のビックデータ解析ノウハウを持つ株式会社ナウキャストと共同で、消費活動の今を知るための新しい指標である「JCB消費NOW」を開発。小売業界のマーケティング担当者などに向けて、調査分析に活用するためのデータを販売・提供している。業種別(EC業種等5業種)の他、地域別、年代別、性別での統計データや、それぞれの項目を組み合わせたクロスデータを閲覧することができる。
銀行業界でも加速するデータ活用
クレジットカード会社におけるデータ活用の取り組みを紹介してきたが、ここからはクレジットカードという商材から少し離れて、銀行業界におけるデータ活用/データ提供の取り組みも2例ほどご紹介する。銀行業界もカード業界と同様に、顧客の重要な金融データを集積/管理している。2021年5月に銀行法が改正されたことにより、銀行の付随業務としてデータ提供ビジネスが可能となった。個人情報の保護・管理は大前提としても、顧客の属性情報や資産保有状況をリアルに知ることのできる金融データは、非常に利用価値が高い。
みずほ銀行
みずほ銀行は、自社の保有する年収データ、支出・消費データ、ATM利用状況等の金融関連データと、官公庁の持つ国勢調査や住宅/土地統計調査などの外部データをかけ合わせて、統計データ販売サービス「Mizuho Insight Portal(呼称:Mi-Pot/ミーポット)」を開発。各種金融取引等の統計データを可視化して、ユーザーのニーズに合わせて加工することが可能で、法人や自治体などに分析ツールとして販売・提供している。企業のマーケティング対象としたい地域ごとに、年収・消費の状況やその変化を把握するなど、今後の消費動向の見える化などに活用されている。
株式会社三井住友フィナンシャルグループ(三井住友銀行)
三井住友フィナンシャルグループは、株式会社電通グループと共に、金融ビッグデータを活用した広告・マーケティング事業を営む新会社「株式会社SMBCデジタルマーケティング」を設立。三井住友銀行が保有する顧客属性情報や利用履歴などのデータを元に、潜在的な興味関心やライフスタイルの推測を行い、企業に対して最適なターゲット層の提案を実施。その上で、広告メディアとして三井住友銀行アプリ等の自社チャネルを提供し、最適な広告コンテンツを配信している。また、電通グループの持つ資産を活用して、自社チャネル以外にもSNS広告や雑誌広告、屋外広告など幅広い媒体で顧客ニーズに応えていくとしている。
まとめ
クレジットカード会社より3事例、銀行より2事例、データ活用事例をご紹介してきた。もちろんここにあげた事例以外にも、様々な企業でデータ活用の取り組みは実施されているが、外部に向けたデータ活用の方法としては大きく3つの分類に分けることができる。
1.分析結果のデータ/レポートの提供
JCBの「JCB 消費NOW」のような、データ分析結果のレポートの提供。
2.統計データを活用した分析ツールの提供
三井住友カードの「Custella」のような、ユーザーが実際に手を動かして分析を実施できる、分析ツールの提供。
3.データ分析/予測による新たなサービスの提供
SMBCデジタルマーケティングが実施する広告配信サービスのような、データを活用した新たなサービスの提供。
これから自社でデータビジネスを始めるという観点においては、最初に着手しやすいのは①の分析結果データ/レポートの提供かと考えられる。そのためには、自社の保有するデータが自社以外のプレイヤーにおいてどれほどの価値があるのかを見定める必要がある。本記事でご紹介した金融データの価値が高いことは明白だが、自社の意外なデータが他社にとって非常に価値の高いものだった、ということも往々にして起こり得る。本記事を通して、データという資産をいかに有効に活用していくかの新たな示唆となれば幸いである。
Profile
- 井上 陽貴
- この記事は井上 陽貴が執筆・編集しました。
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