2024.06.05

より良い行動をユーザーに促す「ナッジ」とは

  • 行動経済学
  • ナッジ
  • ビジネススキル
  • マーケティング
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より良い行動をユーザーに促す「ナッジ」とは
インプットポイント
  • ナッジの基本とコツがわかる
  • ビジネスへの具体的な活用イメージがわかる

現代のビジネスでは、ユーザーの行動を理解し、それに基づいて戦略を立てることが多分に求められている。

その中で重要な役割を果たす概念の1つが、ナッジ理論だ。

ナッジとは、個人の選択肢を変えることなく、自然に望ましい行動を促すことである。

本稿では、はじめにナッジの基本概念を解説し、同じく人に特定の行動を促す手法であるインセンティブやルールとどのように違うのか、また、ナッジを取り入れる際にはどのようなポイントがあるのかを解説する。

また後半では、ビジネス(特にマーケティング)への具体的な活用方法をご紹介する。

ナッジとは

ナッジとは、個人の選択を制限することなく、行動を望ましい方向に誘導するための工夫や設計のことである。

低コストながら、うまく活用することでユーザーに特定の行動や判断を促すことができるため、多くの分野で注目されている概念だ。

北風と太陽の例がわかりやすいだろう。

北風と太陽は、「ユーザー(ここでは旅人)にコートを脱がせる」ことをゴールに、異なる手法でアプローチする物語だ。

北風は強い風を吹き付けて旅人のコートを吹き飛ばそうとするが、旅人はコートをしっかりと締めてしまう。

一方の太陽は、温かい光を照らし、旅人は暑さのために自然とコートを脱ぐ。

後者の太陽が取った手法がまさにナッジである。

ナッジの他にも、人に特定の判断や行動を促す手段として、金銭によるインセンティブや罰則/ルールによる強制が挙げられる。

インセンティブは、特定の行動を促すために経済的な報酬を提供するものである。「アンケートに回答すればキャッシュバック」等がインセンティブにあたる。

強制は、ルールや罰則によって行動を制限するものだ。北風と太陽の例でいえば北風の取った手法がこれに近い。

それに対し、ナッジは、インセンティブでの経済的な報酬や、ルールでの罰則等を伴わず、選択肢の設計を工夫することで行動を誘導する。

詳しくは後述するが、例えば、複数の選択肢がある時に、望ましい特定の選択肢をデフォルト設定にしておくこと等がナッジに該当する。

経済的な報酬を与えるものではないため低コストでありながら、ルールや罰則で強制しないためユーザーの自由意思を尊重できる。

これがナッジのメリットである。

ナッジを効果的に取り入れるための「EAST」

ナッジを実際に取り入れるにはどうすればいいだろうか。

効果的な設計を行うためのフレームワーク「EAST」に沿ってご紹介していこう。

以下4つの要素から成る考え方である。

Easy(簡単である)

行動を簡単にすることが重要である。当然だが、手続きが煩雑であれば、人々は行動を避ける傾向にある。

例えば、オンライン申し込みフォームを簡略化したり入力補助したりすることは、申し込み率を高めるナッジである。

Attractive(魅力的である)

行動を取ることを魅力的にすることで、特定の行動を促進することができる。

例えば、そのユーザーが関心を持ちそうなTipsコンテンツをバナー表示すること等が該当する。

Social(社会的である)

行動が社会や集団に支持されている/規範となっていると感じさせることで、実行率を高めることができる。

例えば、「多くの人がこれを選んでいます」といったメッセージが該当する。

Timely(タイミングが考慮されている)

適切なタイミングで情報を届けることが重要である。

ユーザーにとってその行動が必要なまさに時にリマインドや通知を送ることで、実行率を高めることができる。

上記「EAST」の 4要素を満たすように設計すれば、効果的にナッジを取り入れることができる。

より具体的なナッジの活用例については次章でご紹介する。

マーケティングにおけるナッジの活用

ナッジはマーケティング戦略においても強力なツールとなり得る。

ナッジにより、ユーザーが選択肢を比較して決定を下す手助けをすることで、広告やプロモーションの効果を高めたり、ユーザーによるサービスの使いこなしやより良い設定を促したりすることができるようになる。

それでは、マーケティングにおけるナッジの活用について具体的に見ていこう。

自然な形で望ましい結果を得るためには、先述の「EAST」の原則を活用するといい。

ワンステップ購入(Easy)

オンラインショッピングサイトでワンステップ/ワンクリックで購入できる機能を提供する。

すると、ユーザーにとっての購買プロセスが簡略化され、コンバージョン率を向上させることができる。

デフォルト設定(Easy)

オンラインショッピングサイトで、配送オプションのデフォルト設定を、梱包を簡略化し手渡しも不要とするエコ配送にする。

ユーザーは無意識のうちに環境に配慮した選択をすることができる。

ゲーミフィケーション(Attractive)

コンテンツ/イベント/キャンペーン/サービス等にゲームの要素を取り入れることで、ユーザーの興味を引く。

多要素認証の設定を完了した場合にバッジを付与したり、コンテンツ自体に謎解き等のゲーム要素を付与したりと、設計方法は様々だ。

One to Oneレコメンド(Attractive)

ユーザーの属性/閲覧履歴/購入履歴等基づいて、個別化されたコンテンツを表示することもナッジである。

言わずと知れたOne to Oneレコメンドだ。

ユーザーが興味を持つコンテンツや商品を見つけやすくなり、クリック率や購入意欲等を高めることができる。

エネルギー利用料のレポート(Social)

電力の検針票において、単にその家庭のエネルギー使用量だけを印字するのではなく、近隣の平均の使用量、近隣の平均とその家庭の使用量の開きを報告することで、エネルギー消費の削減を促す。

多くの家庭が節約していることを示すことで、対象の家庭も追従するようになる。

ユーザーレビュー(Social)

商品ページに他のユーザーのレビュー/評価/導入事例等を表示することで、購入意欲を刺激する。

対象ユーザーと属性が類似するユーザーのレビューを見せるとより効果的である。

多くのユーザーや自身と共通点のあるユーザーが利用/評価している商品は、信頼されやすい。

必要なタイミングでのリマインド(Timely)

必要なタイミングを見計らってブラウザ通知やリマインドメール等でコンテンツを提供する。

例えば、

  • オンラインショッピングカートに商品を入れたままの顧客に対してブラウザ通知する
  • ユーザーがアクティブな時間帯/アプリを使用しているタイミングを狙って新商品の通知を送る
  • ユーザーが商品を使い切るタイミングで再購入バナーを表示する

といった設計が考えられる。

このように、ナッジをマーケティングに応用すると、ユーザーの選択を自然に誘導し、望ましい行動を促すことができる。

なお、先述の通り、ナッジは、あくまで他の選択肢を残したまま、そっと特定の選択や行動を促すものである。

インセンティブのように実施すれば必ず効果が出るものでもなく、また、ルールによる強制のように他の選択肢を排除するものでもない。

そのため、A/Bテスト等で効果を検証し、適宜設計を見直す必要がある点にご留意いただきたい。

自由意志の尊重と透明性の確保

ナッジは、個人の選択を尊重しながら行動を誘導する効果的な手法である。

だからこそ欠かせないのが、倫理的な考慮である。

ナッジは、ユーザーの自由意志を尊重し、選択肢を制限せずに行動を誘導するため、

したがって、ナッジの設計者は、ユーザーが自らの意志で選択を行えるよう、過度に操作的な設計にならないような配慮が必要だ。

そのためには、透明なコミュニケーションを行い、ナッジの目的やその影響について十分な情報を提供する必要がある。

いわゆるインフォームドコンセントだ。

例えば、プライバシーに関わる特定のオプションをデフォルト設定にする変更を行った場合は、その理由と影響を明確に説明する。

これにより、ユーザーは自己の選択がどのように影響を受けるのかを理解し、納得した上で行動することができるようになる。

このように、ナッジの設計や活用においては、倫理的な考慮を行い、ユーザーの信頼を得ながら行動誘導を実現することが肝要である。

まとめ

本稿では、ナッジの基本概念、インセンティブや強制との違い、そしてEASTフレームワークを中心とした活用方法を解説した。

特定の行動や判断を自然に促すナッジを取り入れ、コストパフォーマンスに優れた施策につなげていただけると幸いである。

Profile

植野 峻彰Manager
慶應義塾大学卒業後、服飾関連の製造小売企業に入社。その後、化粧品関連の商社にて、主にマクロを駆使した社内外のRPA、およびDXプロジェクトに参画。2021年から株式会社ファーストデジタルにジョイン。
植野 峻彰
植野 峻彰
この記事は植野 峻彰が執筆・編集しました。

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