情報過多時代でも伝わる。チャンキングとマイクロコンテンツ
- インプットポイント
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- 情報過多時代でも効果的にメッセージを伝える方法
- 認知心理学に基づく、記憶に残るコンテンツ設計
私たちは今、かつてないほど膨大な情報に囲まれています。
生成AIを含むテクノロジーの進歩により、情報の生成や共有が容易になった一方で、個人が処理すべき情報量は急激に増加しています。
このような中ビジネスで課題となっているのが、効果的に情報を伝達することです。
単に情報量を削減するだけでは、数多あるその他のコンテンツに飲まれるだけなので不十分でしょう。
複雑な概念や重要なメッセージを、いかに効率的かつ印象的に伝えるかが鍵となります。
ここで注目されているのが、心理学の「チャンキング」と、それを応用した「マイクロコンテンツ」です。
本稿では、チャンキングの基本概念から、マイクロコンテンツの設計方法を解説し、情報過多時代にふさわしい、効果的なコミュニケーションを実現するための手がかりをお届けします。
チャンキングとは
私たちの脳は、見聞きした情報を、効率的に処理して記憶にとどめるために、様々な仕組みを持っています。
その中で重要な役割を果たしているのが、「チャンキング」です。
本章では、チャンキングの基本的な概念をご説明し、チャンキングがどのような場面で活用されているかをご紹介していきます。
1. チャンキングとは何か
チャンキングとは、複数の情報の単位を一つのまとまり(チャンク)として認識し、処理することを指します。
例えば、荷物の追跡番号。「738402159637」を見ても覚えるのは難しいですが、「7384-0215-9637」のように、3つか4つの数字のグループに分けると記憶しやすいと思います。これがチャンキングの一例です。
実はこれと同じ方法で、私たちは様々な場面で、複雑な情報を単純化し、効率的に処理しています。
人間の脳は、一度に処理できる情報量に限界があります。
記憶には短期記憶と長期記憶があるということは有名な話ですが、チャンキングは特に短期記憶と密接に関わっています。
短期記憶では、平均して4つ程度のチャンクが保持できるといわれています。
この性質を利用して、大きな情報(738402159637等)を、短く区切った複数の情報(7384-0215-9637等)としてまとめることで、実質的に処理できる情報量を増やしています。これがチャンキングです。
チャンキングは、「短期記憶という限られた容量を、最大限に活用する方法」と言えるわけです。
2. チャンキングの例
チャンキングは、日常生活、ビジネス、教育など、様々な場面で活用されています。ここでは、ビジネスにおける例を見ていきましょう。
例えば、プレゼン資料。
- スライドごとに1つの主要ポイントを設定
- 情報を箇条書きや図表でまとめる
- 色やアイコンを使って情報をカテゴリー分け
といったチャンキングを行うことで、関連する情報をグループ化して整理し、聞き手の理解と記憶を促しています。
例えば、Webサイトやアプリのデザイン。
- グロナビ等のメニュー項目を論理的にグループ化
- 関連する設定オプションをまとめて表示
等を行うことで、情報や機能をグループ化することで、ユーザーが迷わないような操作や、情報の把握を促しています。
例えば、マーケティングにおけるメールや広告のメッセージ。
- 製品の特徴やメリットを3〜5の主要ポイントにまとめる
- ブランドメッセージを簡潔なキーワードで表現
等の工夫で、複雑な製品情報や提供価値を、消費者が理解しやすい単位に分割し、効果的に伝えています。
このように、チャンキングを活用すれば、情報の受け手は、限られた認知リソースで多くの情報を処理し、記憶することができるのです。
3. チャンキングの注意点
ただし、チャンキングには注意点もあります。
というのも、情報を過度に単純化すると、重要な情報が失われる可能性があります。かといって、「あれもこれも」と情報を詰め込みすぎると、チャンキングの意味がありません。
そのため、チャンキングを行う際は、
- 適切な粒度(どの抽象度や概念で区切るのか)
- 適切な数(いくつのチャンクに区切るのか)
- 適切なボリューム(1つのチャンクにどの程度の情報を持たせるか)
を意識するといいでしょう。
「短期記憶では、平均して4つ程度のチャンクが保持できる」とご説明しましたが、逆に言うと4つまでしか保持できないということです。
これについては「7つまで」という説もありますが、いずれにしても、チャンキングは、「重要な情報が欠落しないギリギリの単位」で区切ることが求められるわけです。
次章では、このチャンキングを実際のコンテンツ設計に落とし込んだ「マイクロコンテンツ」について詳しく見ていきます。デジタル時代において、いかにして効果的な情報伝達を実現するか、その具体的な方法を探っていきましょう。
マイクロコンテンツ戦略の概要
チャンキングをコンテンツに落とし込んだ一つの形として、近年注目を集めているのが、マイクロコンテンツです。
本章では、マイクロコンテンツの特徴や種類、そしてチャンキングとの関係性について見ていきます。
1. マイクロコンテンツとは
マイクロコンテンツとは、短時間で消費できる、情報量を抑えたコンテンツのことを指します。
通常、1つのマイクロコンテンツに詰め込むアイデア・概念・トピックは、1つに絞るのが一般的です。
マイクロコンテンツの形態には、後述のように様々なものがありますが、多くのマイクロコンテンツに共通する特徴として、以下のものがあります。
- 簡潔である:短時間(通常は数秒から数分)で閲覧・視聴できるボリュームです。
- 焦点が明確である:1つのトピックや概念に絞られています。
- 独立・完結している:それ単体で完結し、理解可能な内容になっています。
- 視覚的である:多くの場合、テキストだけでなく画像や動画などの視覚要素が用いられています。
- 共有しやすい:ソーシャルメディアなどで容易に共有できる形式となっています。
- モバイルフレンドリー:スマートフォンなどの小さな画面でも不自由ない内容になっています。
こうした特徴を持つマイクロコンテンツは、近年の忙しい生活スタイルにも、「断片的でいいので時間をかけずに情報を消費したい」というユーザーのニーズにも、非常にマッチしたコンテンツ形態と言えるでしょう。
2. マイクロコンテンツの種類と例
マイクロコンテンツにはどのようなものがあるでしょうか。以下に主な形態を挙げます。
ショート動画/音声
TikTokに代表される15秒〜1分程度の動画は、マイクロコンテンツに当たります。
講演などの長い動画/音声の中から印象的な30秒を切り出した音声なども、マイクロコンテンツです。
インフォグラフィックなコンテンツ
長い文章や複雑な情報の中で、特に伝えたい情報を視覚的に表した図・グラフ・イメージ・ピクトグラム等は、それぞれがマイクロコンテンツに当たります。
短文/スニペット
X(旧Twitter)の投稿など、全文が300〜500文字程度のテキストは、マイクロコンテンツと言えるでしょう。
Googleで検索した際に表示される、Webページの要約文を表示している「スニペット」などもマイクロコンテンツに分類できます。
箇条書き
ネットニュースの冒頭で2~3個で要点をまとめた箇条書きも、マイクロコンテンツの1つと言えます。
そう、このマガジンの冒頭にある「インプットポイント」もマイクロコンテンツですね。
カルーセル
横スワイプで複数の画像や動画を1つずつ閲覧していく形式のコンテンツや、数秒ごとに自動で横に流れる形式のコンテンツも、マイクロコンテンツです。
こうした多様な形式のマイクロコンテンツを、目的や対象によって適切に選択し、組み合わせることで、効果的な情報伝達が可能になります。
3. チャンキングとマイクロコンテンツの関係性
ここまで見てきたマイクロコンテンツは、まさしく第1章で触れた「チャンキング」を応用したものと言えます。
両者の関係性は以下の通りです。
情報の分割
チャンキングにおける「情報を管理可能な単位に分割する」という考え方は、まさにマイクロコンテンツの在り方そのものです。
複雑な情報や大きなメッセージを、消費者が理解しやすい適度な単位に分割することで、情報の理解と記憶を促しています。
認知負荷の軽減
マイクロコンテンツは、一度に提示する情報量を制限することで、ユーザーの認知負荷を軽減します。
これは、チャンキングの説明の際に挙げた「短期記憶という限られた容量を最大限に活用」することと同じアプローチです。
関連付けと構造化
チャンキングでは、複雑なメッセージを、一定の軸で情報をグループ化して区切ります。
つまり、区切られた各メッセージは、
- それぞれがそのメッセージ単体で理解可能であると同時に、
- それぞれのメッセージには関連性や文脈がある
という性質があります。
これはマイクロコンテンツでも同じです。大きな情報を、関連する小さなコンテンツとして適切に構造化し、全体としてみると一貫したメッセージになっています。
このように、マイクロコンテンツは、チャンキングを現代のデジタル環境に適応した情報伝達手法と言えます。
マイクロコンテンツを設計するためのポイント
本章では、効果的なマイクロコンテンツを設計するための重要なポイントをご説明します。
1. ターゲット層の理解と分析
そもそもチャンキングは、情報をある一定の軸で、適切なボリュームに切り分ける行為です。
その切り分けは、情報の受け手たる「ターゲット」があってこそのもの。
つまり、マイクロコンテンツの設計は、顧客やターゲットを理解することから始まります。顧客理解の軸としてよく用いられる観点には以下のものがあります。
- デモグラフィック:年齢、性別、職業、収入レベルなど
- サイコグラフィック:価値観、興味・関心など
- 行動パターン:情報収集の方法、メディアの接触時間、購買行動など
- 課題やニーズ:解決したい問題、達成したい目標など
- チャネルやコンテンツ形式:動画、画像、テキストなどの嗜好
これらの情報を基に、ターゲットを定義し、ペルソナを作成すると、より具体的/効果的なチャンキングの切り分け軸を見つけることができます。
2. コンテンツの分割と構造化
次は、伝える情報の整理です。すなわち、大きなテーマや複雑な情報を、マイクロコンテンツに適した形に分割し、構造化する作業です。
以下のステップを踏むと、分割・構造化しやすくなります。
- 伝えたい主要ポイント(コアメッセージ)を決定する。
- 1つレイヤーを落とし、主要ポイントを支える細かなポイント(サブメッセージ)を整理し、コアメッセージとサブメッセージの階層構造を作る。
- 各ポイントそれぞれが、それ単体で理解可能な単位になっていることを確認する。そうなっていなければ、適切な粒度に分割・統合・調整する。
- (おまけ)その中でも特に重要なポイントは、異なる角度から複数回提示することを考えてみる。
4.についてはイメージがわきづらいと思いますので、少し掘り下げてみましょう。
例えば、新製品の紹介を行う場合、とある機能1つをとっても、単に「主要機能」として伝えることもできるし、その機能を使った「使用シーン」として伝えることもできますし、はたまた、その機能を使った顧客による「お客様の声」として伝えることもできます。
これらそれぞれを、独立したマイクロコンテンツとして設計すると、「異なる角度から複数回提示する」ことになります。
そうすることで、より情報の受け手の理解と記憶に留めることができるようになるわけです。
以上の要素を適切に組み合わせることで、効果的なマイクロコンテンツの設計が可能となります。
重要なのは、常にターゲット層のニーズと行動を中心に考え、柔軟にコンテンツを調整していくことです。
さらに重要性を増すチャンキングとマイクロコンテンツ
本稿では、チャンキングの基礎から、マイクロコンテンツの設計までを解説してきました。
情報過多時代において、これらの概念と手法は、効果的な情報伝達を実現するための重要な鍵となります。
特に今後は、AI技術の発展により、届けるコンテンツはますますパーソナライズされていくでしょう。マイクロコンテンツは、小さな単位で情報を構造化しているため、AIによる個別化されたコンテンツ配信とのシナジーが期待できます。
また、VRや拡張現実の発展により、これまでにない新たなコミュニケーションの在り方が生まれるかもしれません。そのような中、短時間で消費可能なマイクロコンテンツは、ユーザーの注意力や没入感を損なわずに情報の提示ができると考えられます。
いずれにしても、情報があふれる現代において、的確に情報を伝える能力は、ビジネスや教育、そして日常のコミュニケーションにおいて、ますます重要になっていきます。
本稿でご紹介したチャンキングやマイクロコンテンツの概念を取り入れ、役立てていただければ幸いです。
Profile
- 植野 峻彰
- この記事は植野 峻彰が執筆・編集しました。
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